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- 2014.07.11 Friday
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教育現場にも非正規労働が増えている。公立の小中学校で教える非正規の教員は全国で約12万人にのぼり、人数割合は16%を超す。
担任を持つなど正規と同様の仕事をする常勤講師も多いが、1年度限りで失業する不安定な雇用で、待遇の差も大きい。教育の継続性などの面で影響が懸念されている。
大阪府東部の中学校で数学を教える男性は、常勤講師を30年余り続けてきた。しばしばクラス担任を持ち、運動クラブの顧問もしてきた。
「子どもは何かに感動した時に変わる。子どもの成長が一番の喜びですね」
だが、成長を経た子どもの姿を見ることは少ない。正規の教諭と違い、講師は年度が変わると、たいてい別の学校に移るからだ。
常勤講師は、地方公務員法の「臨時的任用職員」。もともと産休、病休などの代替教員を想定した任用制度なので、任期は6か月以内、更新は1回限り。府では毎年、3月30日で任期が終わる。
実際には、府教委の講師リストに登録しておき、3月に市町村から個別に内定が出たら、4月1日からまた働くのだが、府教委は、継続的雇用ではない形にするため、3月31日を「空白の1日」にして毎年、失業させている。他の都道府県もほぼ同様だ。
「熱意も指導力も十分あるつもりだが、落ち着いて仕事ができない」と男性は話す。
今の中学では教員50人のうち9人が常勤講師。給料の基準は正規の教諭より低く、昇給は35歳ぐらいで頭打ちになる。空白の1日のせいで夏のボーナスも2割減になり、年収は正規の7割前後だ。
また、空白の1日の関係で厚生年金保険は3月の加入資格が失われ、健康保険も3月31日は協会けんぽから外れる。厚生労働省は今年1月、短期間の空白なら社会保険を継続するよう通知したが、府はまだ適用していない。
名古屋市で小学校の任期付き教員を続けてきた男性(59)はこの春、任用の声がかからず、失業している。かつては採用試験を何度も受けたが、非正規のまま35年。
「校風や地域事情を知り、子どもの家庭状況や学力、性格、人間関係などをつかむには時間がかかる。それができたころには1年の任期切れ。修学旅行準備など長期的な取り組みにも加われない。それに、若い非正規教員だと次の任用や採用試験が気になり、自分の意見を言いにくい」
教員の定数(法律上の必要標準数)は毎年、子どもの数から算出した学級数をもとに決まる。義務教育の場合、定数分の給与費は都道府県が負担する。その3分の1は国庫負担金、3分の2は地方交付税交付金として国から出る。
国庫負担金には2004年度から「総額裁量制」が導入され、定数に国の給与基準を掛けた総額の範囲なら、具体的な配置方法は地方にゆだねられた。給与水準を下げて多数の正規教諭を置く選択を可能にするためだったと文部科学省は説明するが、その後、多くの府県で、非正規の「定数内講師」が増えた。
大阪府内の小中学校では正規教諭3万501人に対し、定数内の常勤講師が3704人、産休代替などの常勤講師が2007人、時間給の非常勤講師が1110人(昨年5月)。講師が学年主任や教務主任を務める学校もある。
府教委の担当者は「定数内講師が多いのは好ましくない」と認めつつ、「人件費抑制のためではない。約10年前から団塊の世代の教師の大量退職期に入ったが、若い人を大量に採用すると年齢構成がまた偏るうえ、少子化が進む中で将来、人員過剰になるおそれがあった」と言う。
講師経験者の別枠採用は08年から始めたが、採用は年200人台。講師も教員免許を持ち、現に教えているのだからもっと正規へ採用しては、と尋ねると「合格ラインを下げると質の問題が生じる」。
文科省は「定数内は正規の教諭をあてるべきだ。非正規では教育の継続性、研修の機会などの面で問題がある」とする。一方、山口正・日本福祉大教授(教育行政)は「もともと文科省の政策の失敗。地方まかせにせず、安定した教育体制を確保する方策を講じるべきだ」と強調する。
「人事政策の調整弁」として増えた非正規教員。そういう働かせ方の影響が、子どもに及ぶのがいちばん困る。(編集委員 原昌平)
毎日新聞 2014年07月08日 02時35分
景気回復を受け2016年3月卒業予定者向けのインターンシップ説明会が開かれるなど、早くも大学3年生の就活が始まっている。終身雇用を望む学生が増え、安定志向は一段と強まっているが、正社員だからといって安心はできない。若者を使いつぶすブラック企業ばかりでなく、一般の企業でも長時間労働による過労死が増加傾向にある。就活と同時に労働に関する規則についても学び、自分を守ることができる社員になることが求められている。
勤務時間以外に仕事をさせても残業代を払わない、休憩を与えず長時間労働を強いる、理由を書かないと有給休暇を取らせない……。ブラック企業によく見られる行為で、法的には禁止されている。たとえ残業代が基本給に含まれていることを労働者が同意しても会社は残業代を払わなければならない。どのように就業規則に書かれていても法律より低い労働条件を就業規則で定めることはできない。
ところが、現実にこうした被害にあった若者の8割が泣き寝入りをしているとの非営利組織(NPO)の調査結果がある。「その時は違法だと知らなかった」「どうすればいいかわからなかった」という。連合などは各地の高校や大学で労働規則を学ぶ出前講座を行っており、日本労働弁護団も全国各ブロックにホットラインを常設し電話相談を受けている。「失敗しない会社選び」というセミナーを実施しているNPOもある。就活を間違わないためにこうした取り組みをもっと活用すべきだ。
問題はブラック企業ばかりでない。長時間労働は一般企業でも多く、労災認定された過労死や自殺は増加傾向にある。労働基準法では労働時間を1日8時間、週40時間と定めているが、労使協定(36協定)を結べば、それ以上の長時間労働が認められており、大企業の94%が36協定を結んでいる。通常国会で成立した過労死防止法は国の責任を明記したが、法制上の措置は調査研究した上で必要に応じて講じるということにとどまっている。
会社との力関係を考えると従業員が1人で長時間労働を拒むのは難しいが、こういう時こそ労組が役割を果たすべきである。1人で加入できるユニオン・合同労組もある。都道府県労働局には無料で個別労働紛争の解決を援助する制度もあり、年間100万件を超える相談がある。
国の労働政策審議会で「成果主義賃金制度」の議論が始まった。国や経営者には働く人の生命や健康を守る責務があることを重ねて指摘したい。ただ、何事も会社任せにばかりはしていられなくなったことも働く人は自覚しなければなるまい。
岩手、宮城両県で、公共事業を下請け受注した業者を含めて労働条件の確保を目指す公契約条例の制定が議論されている。東日本大震災で被災した両県では労働力不足による復旧工事の遅れが深刻化しており、労働環境の適正化で人手を確保したい事情が働く。導入例は全国で増えているが、推進する労働者側と慎重な業界側の意識差は大きく、条例化には課題が少なくない。(浅井哲朗)
◎労働者側推進、業界慎重/専門家「知事の判断重要」
<人材難が背景>
公契約条例は公共事業に携わる作業員らの労働条件を適正に保ち、事業の品質を確保するのが狙い。公共事業受注の行き過ぎた低価格競争で下請けへのしわ寄せが増したとして、導入する自治体が増えている。
東北では4月に秋田市が理念条例の「市公契約基本条例」を施行した。県レベルで施行した例はない。
岩手、宮城とも、議論のきっかけになったのは復旧工事の相次ぐ入札不調など人材難を背景とした復興の遅れだ。
岩手県は労働組合の請願を受け昨年、庁内に検討チームを設置。来年の県議会2月定例会への提出を目指し、条例案の策定作業を進める。「若年層で深刻さが目立つ建設業離れ対策の一環」(雇用対策・労働室)と位置付ける。
宮城では県議会の調査特別委員会が議員提案の可能性を検討する。視察団は7月、先行する福岡県直方市を訪れ、取り組み状況を聞き取る。特別委の横田有史委員は、多重下請けによる工事代金の「中抜き」など多くの矛盾があることを踏まえ「条例で労働条件を保障しなければ、労働力不足の改善、復興の進展はままならない」と訴える。
(以下略)
2014年06月30日月曜日
中小のトラック運送会社では、低下する運賃、高騰する燃料代のツケを労働者に押し付けてブラック化が進んでいます。京都でも運送業界からの相談が多数寄せられています。この事例もそんな一コマ。
以下引用(中日新聞3月7日)
未払いが社会問題となっている残業代をめぐり、新たな手法が出始めた。これまでは、どれだけ働いても残業代を定額にするなど「固定残業代」の悪用が主だった。最近の手法は複数の手当を残業代と見なし、額を毎月変える。何時間の残業代が払われているか計算も難しく、「未払いを正当化する手段として広まるのでは」と恐れる声が上がる。
職能給、成績給、職別給、安全給…。東京都八王子市に住むトラック運転手の男性(45)が示した給与明細には、さまざまな手当が並ぶ。「会社はこれを残業代と見なす。合計すると、明細の『残業手当』の額にぴったり。技能や安全運転への手当が残業代にされるなど、納得できない」と言う。
労働基準法では残業代について、労働時間に応じて賃金の一・二五倍以上を支払うよう定める。しかし、男性が勤める都内の運送会社は、就業規則の賃金規定で各種手当を残業代に見なすと取り決めている。労働時間ではなく、運送距離や手間を勘案して手当の額を変え、残業代として支払う。背景には運転手は拘束時間が長く、時間に応じて残業代を払うと高額になるという事情がある。
手当を残業代と見なすには、それを定めた賃金規定を会社側が労働基準監督署に提出する必要がある。労働者代表の意見書を添えるのが決まりだが、労基法上の義務は意見を聞くことだけで、同意は必要ない。労基署のチェックにも限界がある。
男性は昨年十二月、残業代を含む未払いの賃金約四百十万円を求めて、勤務する会社を東京地裁に提訴。二月五日の第一回口頭弁論で、会社側は争う姿勢を示した。
なぜ手当を残業代と見なすのか。例えば「職能給」では、会社は「扱う車種などで払う。大型車は荷物も多いので残業が多くなる」と説明する。「安全給」は「安全運転を心掛けることで時間外労働が生じる」という理屈だ。男性は「おかしい。安全運転では定時に終われないとは、法律違反が前提の勤務時間ということだ」と言う。
同様の裁判はほかにもある。神奈川県厚木市の運転手(38)が昨年五月、未払い賃金を求めて訴えた都内の運送会社も、複数の手当を残業代に見なしていた。
この裁判では会社側の事情も明らかになった。会社は「業界は値下げ競争が激化し、人件費を増やせない。業務効率を上げるためにも、固定残業代ではなく、仕事量の多寡などの要素を勘案した制度にした」と主張する。
◇
残業代が手当で相殺される例も。愛知県一宮市の運送会社では、給与明細では残業手当が記されているものの、残業の多い月は「歩合給」が減らされ、全体の賃金は増えない仕組みになっていた。
相談を受けた労組「愛知連帯ユニオン」の元座毅(がんざたけし)委員長は「このような制度が認められるなら、実質、残業代を払わなくてよくなってしまう」と指摘する。この会社に対しては、運転手ら十四人が訴えた裁判が名古屋地裁で争われている。
日本労働弁護団の棗(なつめ)一郎弁護士は「働いた時間に応じ割増賃金を払うという、これまでの残業代の根幹を揺るがす手法だ。固定残業代はまだ計算可能だが、各種手当で変動させて毎月変わっては計算が不可能だ。残業代を払わずに済ませる狙いがある」と話している。
(三浦耕喜)
またしても繰り返された痛ましいバス事故から1週間がたちました。表題に挙げた疑問への答えは、結局この国では安全よりも金儲けのほうが大事ということでしょうか。労働者の団結で、会社に社会的な責任を取れる労働条件を認めさせることが、結局は社会の安全につながるのではないでしょうか。
以下引用(読売新聞富山地方版)
小矢部市の北陸道・小矢部川サービスエリアで起きた高速バス事故で、死亡した宮城交通(仙台市)の小幡和也運転手(37)が昨年12月の休日はわずか2日だったことが、同社への取材でわかった。事故の直近5か月の平均休日数は月3・2日で、少ない休日数の勤務が続いていた。厚生労働省の定める基準内だが、専門家からは、労働基準の見直を求める声も上がっている。事故は明日で発生から1週間を迎える。
◇ 平均3・2日
同社社長室への取材で新たに分かった小幡運転手の休日数は、2013年10月が4日、11月が3日、12月が最少で2日、14年1月が3日。年間休日数は、13年3月から事故直前の14年2月までがここ3年で最低の43日。前年同期が46日、前々年同期が47日だった。
小幡運転手は昨年12月後半から今年1月末にかけ、同社の労使協定で許される限度の13連勤を1日の休日を挟み3回続けており、休日の少ない労働環境が浮き彫りになった。
◇ 人手が不足
同社は、こうした過酷な勤務の原因として人手不足を挙げている。
同社によると、運転者数は10年12月の663人から13年12月の698人へと増加した。しかし、12年の関越道の高速ツアーバス事故を受け、高速バス運行には走行距離に応じて交代運転手の同乗が義務付けられ、一台あたり2人の運転手が必要になった。
◇ 労使で交渉を
労働基準法では週1回もしくは4週で4日以上の休日取得を義務付けているが、1989年の労働大臣告示でバス運転手は2週間に1回の休日勤務が認められた。13連勤は同告示の許容範囲で、同社の労使協定でも最長13日連続勤務を認めている。
バス運転手の確保を議論する国土交通省の検討会で委員を務める全日本鉄道労働組合総連合会の遠山真一郎・JRバス関東本部議長は「告示の基準自体に問題がある。(基準限度を)そのまま適用すれば運転手への負担が大きい。適正な内容を労使間で交渉すべきだ」と指摘。労働問題に詳しい海道宏実弁護士(福井弁護士会)は「人命を預かる労働者には通常以上の配慮が必要。今回の事故が労働基準のあり方を見直す契機となれば」と話している。
(以下略)
まどぐちや各組合でも記事のように選択肢が少なくなってしまう事例が多いです。おそらくもっと多いのは泣き寝入り。権利を知ることと、それを行使する手段(行政機関や労働組合、相談機関)を知っておくこと、そして実際に相談することが大事です。
以下引用
<過重労働から身を守る>(下) 早めに第三者の助けを(中日新聞2月28日福沢英里記者)
(前略)
名古屋市の愛知県労働組合総連合(愛労連)の労働相談センターでは、五人の相談員が交代で、平日の昼間に電話を受けている。全労連の労働相談ホットライン=フリーダイヤル(0120)378060=で、違法な時間外労働やパワハラの相談が多い。
心身ともにぎりぎりの状態の人、自分の状況を一方的に話し、涙で言葉に詰まる人など、相談員にすがるような内容が目立つ。年間約千二百件の相談のうち、来所するのは一割程度。実際に会社側と団体交渉をする事例となると、ぐっと少なくなる。
傾向として解雇され、全て終わってから電話をかける人が多いという。相談員の渥美俊雄さん(64)は「解雇されて初めて労働者の権利に触れる人が多過ぎる。退職勧奨があったその日に相談してもらえれば、状況に合わせて考えられる選択肢も増える」と話す。
相談者には、残業代の計算の仕方や証拠となる書類のそろえ方まで細かく指導する。例えばあるメーカーの営業マンは、上司に報告する書類に訪問先へ行った時間や帰社時間など、一日のスケジュールを細かく記録していたため、労働基準監督署への訴えもスムーズにできた。
同センター所長の黒島英和さん(72)は「働かせ方がおかしいと感じたら、就業実態を示すタイムカードや勤務記録などをメモに残しておくと、違法な時間外労働の重要な証拠になる」とアドバイスする。
(以下略)
九州7県の59市町村で、本来は半年や1年の短期任用が原則の臨時・非常勤職員を、10年以上雇い続けていることが西日本新聞の取材で分かった。任用期限が来るたびに契約を繰り返し、同じ非正規職員を約30年雇い続けた自治体もあった。非正規は長年働いても退職金が支払われず、急な雇い止めで生活の糧を奪われることもあり、トラブルは後を絶たない。
総務省による全自治体の臨時・非常勤職員調査(2012年4月1日時点)で各自治体から同省へ提出された資料を、本紙が情報公開請求で入手し集計した。
それによると、調査は各自治体の事務補助や保育士、給食調理員、看護師、消費生活相談員、清掃作業員が対象。九州で非正規を20年以上雇い続けているのは、熊本県菊陽町のほか熊本市、佐賀県唐津市、大分県国東市、熊本県南小国町、熊本県荒尾市など11市町。保育士を29年雇っている同県菊陽町が最も長かった。
同じ人を雇い続ける理由として、自治体側は「新しく任用した人に業務を最初から教える余裕がない」(福岡県桂川町)と説明する。ただ、非正規の給与水準は正職員より大幅に低く、諸手当や休暇制度も整っていない。仕事内容が正職員とほぼ変わらなくても、退職金は支払われない。
専門家や労働組合からは待遇改善を求める声が相次いでおり、雇い止めされた長期の非正規職員が自治体に退職金を求めて提訴し、裁判所が支払いを命じるケースも出ている。
=2014/02/22付 西日本新聞朝刊=
十分な保障をせず、若者に過酷な労働を強いる「ブラック企業」が、社会問題になっている。厚生労働省の調査でも、違法な時間外労働が常態化している実態が明らかになっている。当事者に話を聞くと、健康を犠牲にして、目の前の仕事に追い立てられる様子が浮かび上がった。
厚労省が昨年、法令違反が疑われる全国の五千百十一事業所を調査した結果、82%にあたる四千百八十九カ所で法令違反が見つかった。最も多いのが「違法な時間外労働」(43・8%)=グラフ(上)。一カ月の残業・休日出勤時間が百時間を超える事業所も七百三十カ所で、14%もあった=同(下)。
こうした実態を裏付ける当事者の証言も、本紙に寄せられた。大阪市の会社員男性(26)は新卒で入った会社を四カ月で辞めた。合同企業説明会で、若手の経営者が、仕事内容や業績について雄弁に語る姿にひかれた。ベンチャー企業の勢いも感じた。
会社は節電できるという機械を小規模の町工場などに販売していた。先輩が営業に行く約束を取るため、男性は一日四百件の電話をかけ続けた。決められたノルマをこなせば職位は順調に上がるが、成績を残せなければ降格となる。
上司は「座らずに立って電話をかけろ」と要求。昼食も取らず、未明まで電話をかけることもあり、残業は月二百時間を超えた。営業成績はトップだったが、体がもたなくなった。「こんな働き方は健康を害するだけ。どんなに仕事ができても経験にはならない」
男性はその後、滋賀県内の商社で三年近く働いたが、朝から晩まで働き続ける生活が嫌になり、地元のメーカーに転職。働きやすさを重視した結果、友人が勤めていて、社内の様子が分かる会社を選んだ。「会社は実際に入ってみないと分からない」と振り返る。
◇
この男性のように転職先を見つけるのは容易ではない。働く意欲を失うなど、過重労働がその後の人生に影響することもある。
名古屋市の無職男性(44)は、新卒時に入社したメーカーで、音響機材を修理するサービスエンジニアとして働いた。仕事の愚痴をこぼしたのを機に社内でいじめに遭い、手間も時間もかかる仕事ばかりが回ってくるように。仕事が終わらずサービス残業をしても、修理件数が少ないことなどを理由に、会社から退職を勧められたという。
男性は「何とか頑張ります」と、一年間しがみついた。会社側が父親に退職を説得するよう申し入れ、父親にまで「おまえが悪い」と否定された。「ノルマがこなせないのは自分が悪い」と思い込み、周りが見えなくなっていった。
退職後は製造業を中心に五〜六社で働いたが、いずれも長続きせず、短期雇用の仕事が中心になるなど、働く意欲もうせていった。「家族にも話せず、会社から辞めろと言われる弱い部分は、友人にも見せられなかった。誰かに相談すればよかった」と声を絞り出した。
◇
名古屋市の派遣社員の男性(41)は昨年、勤務先の物流会社で三十代の正社員が突然死する事態に遭遇。職場は派遣やパート中心。正社員は常時一人か二人しかおらず、亡くなった正社員が仕事を抱え込み、残業続きで週末も休まなかった。正社員の体の不調には気付いていたが、自身も目の前の作業に追われていた。
社内に労働組合はなかった。社員が同僚や上司に相談したり、雑談したりすることもなく、声をかけるのもはばかられる雰囲気だったという。「病んでしまう前に、悩みを吐き出す気力さえ残っていれば、結果は違っていたと思う」
(福沢英里)
毎日新聞 2014年01月29日 21時39分(最終更新 01月30日 01時38分)
労働者派遣法の改正を議論してきた厚生労働省の労働政策審議会は29日、正社員の仕事を派遣労働に置き換えることを防ぐ「常用代替防止」のルールを大きく緩和する内容の報告書をまとめ、田村憲久厚労相に建議(答申)した。厚労省は今国会に派遣法改正案を提出、来年春からの実施を目指す。企業は派遣を活用しやすくなる一方、雇用が不安定化する懸念があり、派遣で働く人たちからは不安の声が上がっている。
報告書によると、派遣受け入れ期間の上限(現行3年)を事実上撤廃、3年を超えて派遣社員を使う場合、民主的な手続きで選ばれた労働者の代表から意見を聞いたうえで人を入れ替えれば、派遣先企業の判断で無期限に派遣を使うことができるようになる。
派遣会社と無期限の雇用契約を結んだ人は期間の制限を受けず、これまでも無期限派遣が可能だった通訳などの「専門26業務」は廃止。派遣先による事前面接を解禁する案は削除され、待遇面では派遣先の正社員と「バランスを考えた均衡処遇を推進する」とした。
経団連の米倉弘昌会長は「派遣社員にとっても(権利が)保障され、バランスが取れている」と評価した。一方、「NPO法人派遣労働ネットワーク」は「雇用安定と待遇改善への期待を裏切った」として建議撤回を求める声明を発表。事務職への派遣で7年間働いている千葉市の女性(32)は「派遣を抜け出したいと思っている人には正社員の仕事を得ることがますます厳しくなる」と語った。【東海林智】